心不全とは
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2011.10.20


  屋上に大きな水槽があって、 その中には水が溜っています。 この水槽は、 庭の草木に水をやるために作られたものです。 水槽にはホースが繋がっており、 そのホースから散水されます。 ホースは庭の隅々までは届きませんが、 水には勢いがあるので水は庭の隅々にまで届きます。 しかし、 長らく散水していると、 次第に水圧が低くなって水の勢いが弱くなり庭の隅々まで届かなくなってきます。 そのとき、 あなたはまず何をしますか? そうですね、 ホースの先を指でつまんで出口を狭くします。 すると、 ホースの中の水圧が上がり水の勢いが増して、 庭の隅々まで再び水が届くようになります。 しかし、 これも次第に弱くなりますので、 最後は、 屋上に水を持っていって水槽に水を入れなければならなくなります。

  庭の隅々は、 大切な脳や腎臓という臓器だと考えてください。 高い所にある水槽は心臓、 ホースは血管、 水は血液です。 心臓の働きが少し弱ってきて、 脳や腎臓の血流量が少なくなると、 自律神経やホルモンの作用によって動脈血管が細くなり、 血圧が上がって脳や腎臓の血流量がまた増えてきます。 しかし、 血管が細くなりすぎると逆に、 脳や腎臓の血流量は減少してしまいます。 そうして結局は、 血液の量を増やさないといけなくなります。 そこで今度は、 尿量を減らして水を血管の中に取り入れて血液量を増やそうというホルモンが働いてきます。

  こうやって脳や腎臓の血流量がまた増えてくればいいのですが、 心臓の機能がある程度以上低下していますと、 せっかく血液量を増やしても脳や腎臓の血流量が増えなくなってしまい、( これを 心機能の非代償期 といいます。)余分の血液がダムの上流に溜まって水かさが増えるのと同じようなことになってきます。 心臓のすぐそばの上流には肺があるので、 血液は肺の血管の中にいっぱい溜まって肺の血管の血圧を上昇させます。 すると、 血管の中の水が血管から肺の方に出て行きます。 そうして肺は水浸しになり、 空気を追い出してしまいますので、 酸素がなかなか血液中に入ってこなくなり呼吸がしづらくなってきます。 脳や腎臓の血流量は減っているわ、 血液中の酸素は少なくなっているわで、 脳や腎臓の酸素不足はいっそう深刻な状態になっています。 また、 これまでに少し怠けていたために仕事が溜ってしまった心臓は、 血液を前に送ろうとしても送り出しにくいし、 後ろにはたくさんの血液の荷物は溜まっているしで、 悲鳴を上げながら、 なんとか尿を多くすることによって血液の量を少なくしようとし、 そういう作用のあるホルモンを分泌するようになります。

  こういった状態が心不全です。 不全とは、 重度の機能低下のことです。 心臓の機能は血液ポンプ機能です。 心不全の治療の考え方は、 まず、 脳や腎臓の血流量を減らさないように気をつけながら、 肺に溜まっている水を取ってやることです。 そこで、 血管の中の水を尿にして出してやろうとします。 利尿剤という薬を使います。 次は、 心臓をゆったり・しっかりと拍動するようにしてやろうとします。 そのためには、 脈拍が増えすぎているのを直してやろうとします。 また、 無益な動脈血管の収縮は心臓に負担をかけるだけなので、 それを取ってやることも大切です。 脈拍や血管の収縮を調節する薬は、 自律神経やホルモンに働く( 作用を強めたり弱めたり )する薬です。 肺は血液の流れからいうと心臓の上流( 前 )であり、 動脈血管は心臓の下流( 後 )ですので、 肺に対する治療は 前負荷の軽減( プレロードケア )と言われ、 動脈血管に対する治療は 後負荷の軽減( アフターロードケア )と言われます。


 心不全は、収縮障害型 と 拡張障害型 と 中間型 とに分類されます。収縮障害型は、心臓の血液駆出量が低下して起こります。上の血圧( 収縮期血圧 )と下の血圧( 拡張期血圧 )との差( 脈圧 )が少なくなります。脈圧の標準値はおよそ 35 〜 55 mmHg です。拡張障害型は心臓へ血液が戻りにくくなるために起こります。心臓や大血管のしなやかさが低下して拡張しにくくなっています。脈圧が大きくなります。コントロール不足の高血圧が長年続くと拡張障害型心不全になりやすくなります。