1970年( 昭和45年 )に放映された向田邦子らの脚本ドラマ、 だいこんの花( 第1シリーズ第10話まで )を、 何度もなんども見ています。 主演は、 森繁久彌、 竹脇無我、 川口昌で、 コミカルで優しい家族のドラマです。 有名な俳優さんがたくさん出演されていますが、 残念なことに多くの方が他界されてしまいました。 このドラマの脚本のすばらしさは言うまでもなく、 すべての俳優さんたちの演技に味があります。 そしてさらに、 このドラマに命を吹き込んでいるのが、 富田勲のBGMです。 ドラマにリズム感を与え、 登場人物の心の動きを見事に表現しています。
富田勲といえば、 「 NHK新日本紀行 」、 シンセサイザー音楽の、 「 月の光 」、 「 展覧会の絵 」、 「 惑星 」 が有名ですが、 ドラマやアニメのオープニングミュージックとして、 この 「 だいこんの花 」 や 「 ジャングル大帝 」 や 「 唖侍鬼一法眼 」 など魅力的な作品をたくさん作っています。 また、 「 学校 」 や 「 たそがれ清兵衛 」 などの山田洋二監督の映画は、 彼の音楽により、 いっそう素晴らしい作品に仕上がっています。
シンセサイザーは、 作曲する道具であり、 演奏する道具であり、 さらに、 音を作る道具です。 音の3要素は、 音高( ピッチ )、 音量、 音色 です。 ですから、 音を作るとは、 主に音色を作ることになりますが、 私たちの 「 音質の聴覚認識 」 は音色以上の広範囲に及びますので、 音づくりも広範囲です。 例えば、 4分音符のA の音を作ることにしましょう。
音色とは、 オシロスコープで見たときの音の波形のことです。 音の波形は、 たくさんの波が合成されてできたものですが、 2階層的に分解されます。 上部階層は倍音たちで、下部階層は素材波形たちです。 たとえば、 シンセサイザーでは、 正弦波、 鋸歯波、 三角波 などの素材波形が用意されています。 それぞれの素材波形の倍音たちが、 さまざまな振幅で合成されて1つの音の音色が出来上がります。 素材波形の基本振動数を440ヘルツにし、 その振幅をその倍音たちよりも大きくしてやれば、 音名Aの音になります。
こうして音色が作られます。 たとえば、 ギター と バイオリン の音色はよく似ています。 波形が類似しています。 それは同じ弦の振動によるものだからです。 しかし、 私たちの聴覚は、 この2つの波形の差以上に2つの楽器の音の違いを聞き分けています。 それが、 「 音色以上の音質の聴覚認識 」 です。 では、 そのための音の加工を始めましょう。 まずは、 ビブラートです。 ビブラートとは、 1音内のピッチの波動的変動です。 次は、 コーラス化です。 1音内のピッチの微小変動の異なる同一音色の複数の音を合成すると、 音に厚みが加わります。
ギター と バイオリン の音の差は、 ビブラートだけではありません。 もっと大きな差を生み出しているのは、 「 1音内 音高変化 」 ではなく、 「 1音内 音量変化 」 なのです。 バイオリンは音の立ち上がりの悪い楽器の代表であり、 ギターは音が減衰する楽器の代表です。 1音内の音量は、 4期に分かれます。 アタックといわれる、 最高音量に達するまでの瞬間的な時間、 その後安定音量に達するまでの瞬間的な時間、 一定の安定音量の時間、 そしてリリースといわれる、 消音までにかかる時間です。 ギターの音はリリースが長く、バイオリンの音はアタックが長いのです。 シンセサイザーには、 これらの時間を調節する機能がついています。
水彩画を趣味にしている職場の同僚から、「 絵を書くようになってから、 いろんな色や光が見えるようになった。」という話を聞いたことがあります。 多忙の日々の中、 気がつけばいつも、 波風立った池の表面のように落ち着きのないこころになっています。 時には、 いろんな自然を写し出す澄みきった池のこころになりたいものだと思います。 ドラマ「 だいこんの花 のオープニングには、 富田勲の曲とともに、 人知れず咲く細かな白い大根の花の絵がでてきます。 背景のブルーがとっても素敵で、 たいへんに優しい花たちの絵です。
波形の組み合わせによる音色作りの理論-
どんなベクトルも、 次のような直交基底たちの1次結合の形で表現することができます。

これに似たことが波動関数の世界でも成り立っています。 波動関数の基本形は、 次のように表されます。

どんな周期関数も、 次のような直交関数列たちの1次結合で表すことができることが、 フーリエによって証明されており、 この形式で表現された周期関数は、 フーリエの級数展開式 と言われています。



の振動数は
の振動数の
倍です。ということはつまり、 ある音1つとそれと位相が90度ずれた音の基本音2つがあれば、 それらの倍音を自由に組み合わせることによってすべての音を作ることができるということです。
シンセサイザーでは、 音作りを簡単にするために、 以上のような基本音から作成した加工音をたくさん揃えており ( 素材波形 )、 それらの加工音の倍音を組み合わせてさらに新しい音色が作れるようになっています。
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