野球の力学
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2012.03.29
キレのある変化球と言えば、 球速と曲がりが共に大きくて、 バッターからすると急激に横または下または斜め下に向かってクイッと曲がる球のことです。 つまり、 キレのある変化球とは、 速度と加速度が共に比較的大きい、 投球された球の移動様式のことです。 先日、 高校野球の実況中継を見ていましたら、 解説者の方が「 彼のストレートには、 キレがあります。」と言っていました。 いったいストレートのキレとはなんでしょうか? 「 キレのある動き 」とは俊敏な( 速度と加速度の大きい )動作のことですが、「 キレのあるストレート 」は「 キレのあるビール 」と同じように、 わかったようなわからないような言葉です。
そこ調べてみると、 およそ次のようなことでした。
基本的なストレート( 直球 )とは、 初速がある程度あるために、 水平以下の方向に投げ出されたとしても、 速さの2倍に比例する空気抵抗にもめげずにキャッチャーまで届き、 かつ、 横には変位せず、 かつ、 縦には自由落下運動をする球のことです。 こういう軌道をとる球は、 ピッチャーが手放した点からキャッチャーミットまで直線軌道で届いているように、 キャッチャーもバッターも感じるそうです。
キレのあるストレートとは、 逆回転( バックスピン )がボールに加わり、 ボールの上側の空気は速く流れ、 ボールの下側の空気はボールとの摩擦によって流れが遅くなります。 すると、 ベルヌーイの定理よりボールの上下で気圧の差ができ、 ボールが浮き上がります。 そうして、 自由落下の分ほどは落下しなかったボールは、 バッターからすると浮き上がってくるように見えます。 いわゆる「 伸びのあるボール 」です。 また、 バックスピンがかかっていると空気抵抗が少なくなりますので、 減速量が少なくなります。 したがってキレのあるストレートは、 初速と終速の差が少ないストレートです。 キレのあるストレートの欠点は、 空気抵抗が少ないために微妙な変位をしないことと、 振り遅れないでバットの芯で捉えられたときには飛びやすい「 軽い球 」であることです。
投球もバッティングも、 ボールに運動エネルギーを与える主力は体幹の回転( 剛体の回転 )によるものです。 ピッチングのコーチングにも長けている工藤投手も、 著書の中で、 投球においてグローブ側の腕を使って体幹の回転速度を上げることの重要性に触れておられます。 したがって、 体幹の軸を固定して、 末梢の四肢の関節を柔らかく使わなければ、 体幹の回転速度が上がらず、 大きな力をボールに伝えることができませんし、 またボールを狙った所へも投げることができません。 今、 メジャーリーグの選手たちの一部がオープン戦のために来日していますが、 解説者の方が、 彼らの多くが投球やバッティングの時に頭が前に突っ込んでいかず、 軸がぶれていないことを称賛していました。 軸ブレしない動きは、 たとえ才能はあるにしろ言うは易く行うは難しで、 絶え間ない日々の苦しいトレーニングによるものであろうと思います。