タワーの日本語訳は「 塔 」です。 塔の語源は、 ストゥーパです。
ストゥーパ
卒塔婆
塔婆
塔ストゥーパとは、 釈迦の遺骨が埋まっている塚のことです。 つまり、 お釈迦様のお墓です。 塔婆とは、「 板塔婆 」のことで、 戒名などの文字を書き、 墓の脇に立てる五重の塔を簡略化した板状の長い木片のことです。 形は、 座禅のときに肩を打つ「 警策 」に似ています。 ということは、 法隆寺や東寺や室生寺などにある五重の塔は、 お釈迦様のお墓なのです。 お墓を高くした理由は、 遠方からも眺められるので、 多くの衆生にとって感応道交することが可能になるためです。 感応道交とは、 衆生の心が仏の心に通じ、 仏の心が衆生の心に応答することです。 これは、 情報が電波に乗せられて伝えられるようなもので、 スカイツリーが地上デジタル放送を担っているのによく似ています。

薬師寺の西塔の再建を成就した西岡常一棟梁( 1995年没 )は、 著書「 木のいのち 木のこころ 」や「 木に学べ 」の中で、 宮大工の口伝を、 次のように紹介しています。
「 堂塔建立の用材は、 木を買わず山を買え。」
「 木は生育の方位のままに使え。」
「 堂塔の木組みは木の癖で組め。」
「 道具は心得がいくまで研げ。」
「 うまい人の技術や道具を盗み取れ。」
含蓄のある言葉です。 宮づくりは、 木を組むことなのですね。 木をくっつけるのとは違うのですね。 木にもいろいろと個性があるのですね。 木は伐採された後も生きているのですね。 木や道具を知り尽くしているからこそ、 長持ちのする木造建築が可能になるのですね。
お寺の堂や塔は、 1階と2階の柱は一本の柱で繋がってはいないそうで、 2階の柱は1階の柱よりもやや内側にズレているそうです。 そういえば、 五重の塔の軒反や屋根垂みも、 上にいくほどやや小さくなって、 見た目にも安定感があり、 芸術的です。 こうした構造が地震に強く、1階が右に揺れると、 2階は相対的に左に動き、 大きな揺れを吸収してしまうそうです。 この構造は「 柔構造 」と言われています。 これは、 医学的に言うと、 建物の中に関節をたくさん作ることです。 またこれは、物理学的に言うと、 建物の固有振動の周期を長くすることによって、 地震に同期しにくくさせる工夫です。
五重の塔の本体は、 心柱です。 昨年の秋、 久々に「 怒りの仏像たちを含む立体曼陀羅による密教の宇宙 」を感じたくなって、 神戸の大学に通っている娘と2人で東寺に行ったとき、 運よく五重の塔の内部が公開されていました。 塔の前で、 最初に紹介したような塔のお話を伺った後、 中に入ると、 弘法大師 ( 空海 ) の壁画に出会いました。 そして、 心柱をこの目で見てきました。 三重や五重の屋根は、 この心柱を長持ちさせるためのものです。 塔を作るとき、 心柱を風に揺れても元に戻る大木のイメージで作るそうです。「 塔が出来上がったときに、 隅木の端を手でガッと押すと、 ゆうらゆうら動くんです。」と西岡棟梁は書いています。 耐震性には「 あそび 」が必要なのです。
私たちの職場では、 ガイドライン や マニュアル や 勉強会 が横行しています。 職員みんなのスキルを向上させ、 お客様本位の安全で快適なサービスを提供するための手段です。 私もその恩恵にあずかっています。 これに比べ、 宮大工職人の世界は、 大変厳しいと思います。 したがって、 そこで生き抜いてきた人間の言葉には重みがあります。 千年以上もの耐久性が要求される歴史的建造物の再建は、 本物の職人にしかできないもので、 西岡棟梁の偉大さを思います。
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