影を消す( 歩きながら考えること )
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2014.10.07


  広い田んぼの中を真っ直ぐに伸びる道路を、 ひたすら満月に向かって歩く。 歩くのは左側の歩道だ。 その方が時折くる車のヘッドライトが眩しくないのだ。 稲刈りの終わった田んぼも見受けられるようになった。 ウォーキングの折り返し点を過ぎると、 斜め前に自分の月影が見えてきた。 まばらにある街灯を過ぎるたびに、 もう一つの影が現れる。 それは次第に前へ前へと伸びていく。

  はっと気がついた。 日中に道路を歩く自分の影は1つではない。 無数にあるのだ。 太陽からの直接の影、 壁に反射した太陽の光による影。 私の眼に入る物すべては、 太陽の光を跳ね返して私を照らして影を作っているのだ。 しかし、 道路が太陽によって明るく照らされているために、 その影が見えないだけなのだ。

  スポットライトは、 真実とは異なる「 人の印象 」を、 強くしたり弱くしたりすることができる。 フォトスタジオでいろんな方向からスポットライトを当てるのは、 顔に影ができないようにするためである。 影を消すために、 影のできている部分を明るく照らすのだ。

  これと同じような手法が取られることがある。 小さな物どうしを比べるとその差は歴然としているのだが、 それらに同じ大きな量を加えてから 、その2つを比べるとその差が見えなくなるのである。 昨日の平均気温は 13.8 ℃ 、 今日の平均気温は 16.7 ℃ である。 したがって、 気温は昨日に比べて今日は 21.5 % 上昇していることになる。
     ( 16.7 ÷ 13.8 −1 )× 100 = 21.5 %

  気温の単位を摂氏から絶対温度に変換すると、 昨日の平均気温は 287.0 K 、 今日の平均気温は 289.9 K である。 したがって、 気温は昨日に比べて今日は 1.0 % しか上昇していないことになる。
     ( 289.9 ÷ 287.0 −1 )× 100 = 1.0 %

  また、 0%から始まらずに50%から始まる棒グラフを比べると、 2つの差が余計に目立ってくる。 まるで有意差があるかのようだ。 これは影を消すのとは反対の手法である。

  影 と 陰 とは違う。 陰とは、 何かにさえぎられた照明が届かない空間のことである。 影とは、 照明が何かにさえぎられると、 照明の光を反射する物の「 さえぎる物によってできた陰に存在している部分 」が反射する光の量が少なくなるために像として見える現象である。