自分の観察系の中に他人の慣性系はない
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2016.5.21


  位置ベクトルとは、 ある点の原点からの方向と隔たりを表すものです。 位置ベクトルの始点は原点で、 位置ベクトルの終点はその点です。
 「 あそこにある物をあなたから同じ方向に遠ざけて現在の隔たりの2倍の位置に移動させなさい。」という命令が下ったとき、 あなたは頭の中で「 位置ベクトルを回転させないで大きさを2倍にする 」という操作をして、 移動目的位置を決定します。 これは、 あるベクトルに別のベクトルを対応させるということですから、「 ベクトルの写像 」という数学的範疇に入ります。
 「 あそこにある物のあなたからの距離を、 メートルからセンチメートルに直しなさい。」という命令が下ったとき、 あなたは頭の中で「 座標軸に刻まれている目盛りの間隔を100分の1にする 」という操作をしてから、 位置ベクトルの大きさを測ります。 このとき位置ベクトルには全く手を付けていません。 これは「 座標変換 」という数学的範疇に入ります。

 「 ベクトルの写像 」では、 座標は変化せずにベクトルが変化します。「 座標変換 」では、 ベクトルは変化せずに座標が変化します。 したがって、「 座標変換 」では、 ベクトルの相対的な評価のされ方、 つまり、 ベクトルが異なる2人からそれぞれどう観察されるのかということ、 が焦点になります。 特殊相対性理論が扱っているのは「 ベクトルの写像 」ではなく「 座標変換 」です。 特殊相対性理論では、 2つの相対的に等速直線運動をしている慣性系があり、 それらの間での同一ベクトル( それは物質の移動を表すベクトルですが )の表示方法の違いを見ているのです。

  さて、 特殊相対性理論が直接扱っているのは、 単なる空間ではなく、 等速直線運動している空間です。 それを「 移動空間 」と言うことにしましょう。 空間は、 横幅・奥行き・高さの3次元です。「 移動空間 」が移動するのは、 それに時間が加わった「 4次元時空間 」です。

  相対性理論の迷路に陥ってしまう原因の1つに、「 移動空間 」=「 他人の慣性系 」という勘違いがあります。「 移動空間 」=「 等速直線移動している物質 」という捉え方をしなければならない所を「 移動空間 」=「 他人の観察系 」と捉え、 かつ「 他人の観察系 」=「 他人の慣性系 」と捉えてしまうのです。

  思考が複雑にならないために、 今後、 空間は1次元であると仮定して話を進めましょう。 したがって、「 移動空間 」が移動する時空間は2次元になります。 距離と時間の2次元です。 また、「 移動空間 」をある物質が占拠している空間とします。 すると、「 移動空間 」=「 等速直線移動している物質 」になります。 横軸に時間をとり縦軸に距離をとって物質の等速直線運動をグラフ化すると、 それは原点を一端とする線分で表されます。 ただし、 原点を観察を開始したときの物質の存在時空点とします。 ある時間観察した時点での物質の存在時空点は、 その線分の原点でない方の一端です。 原点を起点とし、 線分の原点でない方の一端を終点とするベクトルは、 時空間の位置ベクトルですが、 それは、 その時間内での物質の時空間移動を表すベクトルです。

  さて、 物質の時空間移動のベクトルを座標変換して得られる結果を提示しているのが特殊相対性理論です。 では、 思い浮かべてください。 ここに相対的に等速直線運動している A さん と B さん がいます。 そして、 B さんと常に同じ位置に存在する物質C があります。 このシチュエーションは、 A さんからすると、 自分は第1観察者であり、 B さんは第0観察者になります。 第1観察者に対して等速直線移動をしながら、 第1観察者が観察している物質を観察している人のことを 第2観察者と言い、 第1観察者が観察している物質と並走しながらその物質を観察している第2観察者のことを、 第0観察者と言います。 まず、 物質C の移動をA さんが観察したときに、 物質C の移動を表すベクトルをA さんがどう見るのかを考えます。  次に、 物質C の移動をB さんが観察したときに、 物質C の移動を表すベクトルをB さんがどう見るのかを考えます。 そして、 から への変換を考えます。

  まず ですが、 横軸に時間をとり縦軸に距離をとって物質C の移動をグラフ化すると、 それは原点を起点とする斜めのベクトルで表されます。 次に ですが、 横軸に時間をとり縦軸に距離をとって物質C の移動をグラフ化すると、 それは原点を起点とする横軸上のベクトルで表されます。 そして、 から への変換を考えると、 それは次の図のようになります。

                         

  これは、 座標変換ではなくベクトルの写像です。 本当はこれでいいのですが、 特殊相対性理論は、 2つの慣性系での座標変換でないとダメだということで、 直交座標系と斜交座標系との間の座標変換の1つであるローレンツ変換を持ち出してきます。 そうする理由は、 特殊相対性理論が、「 自分の観察系の中に他人の観察系も存在する。」と勘違いしているからです。 自分の観察系の中にあるのは等速直線移動している物質が占拠している空間( 慣性系 )だけであり、 第0観察者の観察系は存在しません。 つまり、 自分の観察系の中には「 第0観察者の慣性系 」は無いのです。 したがって、 自分の観察系の中での光の伝達は、 自分の観察系の中での光の伝達であって、 他人の観察系の中での光の伝達ではありません。 自分の観察系の中に存在する他人は点とみなせるものであり、 その他人の観察系は、 その点から無限に広がる、 自分の観察系とは異なるその人独自の中にあります。 物質C の移動は、 同じ時間かけて第1観察者からも第0観察者からも観察されているのです。 そして、 第0観察者にとっては物質に対する光の速さは C m/s ですが、 第1観察者にとっては物質に対する光の速さは C m/s ではないのです。 そして、 光子や物質の軌跡を表すベクトルは1つではなく、 観察者の数と同じ数あるのです。 もちろん、 第1観察者の観察系では、 光子や物質の軌跡を表すベクトルはそれぞれにつき1つだけですが。


          ( 付け足し )
               特殊相対性理論というと、 移動している慣性系の時間や空間の大き
              さが変化することにばかり目がいってしまいます。 もし、 相対性理論が
              修正されて、 異なる観察系でも時間や空間の大きさは変らないという
              ことになったとしても、 質量 や 運動量 や エネルギー の本質について
              は、 アインシュタインの言うとおりであり、 特殊相対性理論は偉大な理
              論なのです。

 参照:
   ばいおりんの日常的物理学文集 > 哲学と物理学 > 空間は収縮し時間は伸展する
   ばいおりんの日常的物理学文集 > 哲学と物理学 > 一人一宇宙
   ばいおりんの日常的物理学文集 > 哲学と物理学 > 空間と時間の概念: カント vs アインシュタイン