和時計 歯車を自由に操る術
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2011.10.20____


  2002年に放映された NHKハイビジョンスペシャル「 独立時計師たちの小宇宙 」に続き、 2005年に「 万年時計の謎に挑む 」が放映され、 1851年に田中久重によって作られた「 万年自鳴鐘( 万年時計 )」の解体作業により明らかになったその からくり( 秘められた仕組み )が、 コンピュターグラフィクで紹介された。

  万年時計は、 晩年に東洋のエジソンと言われた「 からくり儀右衛門 」こと田中久重が49歳のときから3年間をかけて制作したゼンマイ式時計である。 大きさが約 60cm の美術品としてもすぐれた六面体の置時計は、 上部の天球儀を含め7つもの表示部を持っている。 洋時計、 和時計、 曜日、 干支、 月の満ち欠け などの表示である。 この時計のからくりで特に注目されるのは、 1回ゼンマイを巻いただけで 220日 も動き続けるということと、 自動的に、 季節によって変化する太陽と月の運行を表し、 季節によって変化する 朝五ツ( 辰の刻 )や 昼八ツ( 未の刻 )などの江戸時代の時間帯を随時表示できることである。

  強くて長持ちの からくり はこうである。 動力には4つの強いゼンマイが使われていて、 それは厚さ 2mm の 合金の黄銅( 真鍮 )でできており、 幅 7p 位 で 伸ばすと 370cm にもなるそうだ。 その上、 2つの ゼンマイを格納した自力回転装置 がチェーンでつなげられており、 力のモーメントが2倍になるようになっている。 そして、 円錐によるチェーンの巻き取りによって、 ゼンマイによる回転が上部の時計部分に伝わるようになっている。 自力回転装置の回転軸に付けらた円錐に、底部から上部に向かってらせん状にチェーンが巻き取られていくと同時に、 上部の時計側の回転軸に付けられた円錐からは、 巻きつけられたチェーンが逆に頂点側から剥がされていくので、 ゼンマイが次第にほどけてきて回転力が弱くなってきても、 自力回転装置の回転軸にかかる上部の抵抗による力のモーメントが弱まるようになっているために、 ゼンマイが解け切るまできちんとエネルギーが伝わるようになっている。 なお、 この時計のペースメーカーは、 洋時計( これは外国で作られた懐中時計がそのまま用いられている )に内蔵されているゼンマイバネの巻き解きの振動で、 他の5つの表示部の動きはこの洋時計と連動するような仕組みになっている。

                              


  頂部の天球儀は、 平面に日本地図が描かれており、 天球を表すガラスの半球がそれを覆っている。 天球上には 子午線 と 春分・秋分の太陽軌道 が描かれていて、 赤色球の太陽 と 銀色球の月 が、 実際の運行通りに動くようになっている。 田中久重は、 万年時計の制作に取りかかる前、 熱心に天文学の勉強をし、 太陽や月の運行のしくみを完全に掌握している。 そして、 彼は、 それを天球の下側に隠れた半球の内面に「 皿状歯車 」を数枚組み合わせることによって見事に再現している。 たとえば、 太陽の1日の運動は、 最も大きな大皿歯車が時計回りに1日に361度回転することで実現される。その間に、 大皿歯車上の小皿歯車の回転によって、 太陽を表す赤玉球を先端に持つ湾曲した丙状の腕は反時計回りに1度回転する。 こうすることによって、 太陽が24時間ごとに南中し、 しかもその高さが1年周期で変化するようになる。

  和時計は、 0時を表す 子 という文字盤が上部に固定され、 12時を表す 牛 という文字盤が下部に固定されており、 その右側には、 わずかに移動する 八、 七、 六、 五、 四 の文字盤が円状に上から下へと並んでいて、 左側には、 わずかに移動する 四、 五、 六、 七、 八 の文字盤が円状に上から下へと並んでいる。 そして、 その文字盤たちが作る円の中を、 時計の針が等速で1日1回転するようになっている。 江戸時代の時間は、 日の出・日の入り頃が 六ツ とされているので、 季節によって時間帯の長さが異なる。 そこで、 文字盤の間隔が自動的に広くなったり狭くなったりするようになっているのだ。 それは次のようなからくりである。 同軸に平行に取り付けられた歯が片側しかない2つの歯車を、 1つの歯車に対して両側から直角に合わせ、 かわるがわる歯が噛み合うようにして、 年に1回転ゆっくりと回転させる。 すると、 半年ごとに右回転と左回転を繰り返す運動をさせることができる。 さらにその運動を他に伝える小さな歯車に対して、 大きな歯車 A と B とを両方から直角に噛み合わせると、 互に反対方向に回転し合う1対の周期的往復回転運動を作ることができる。 そして右半分の 八 や 七 などの文字盤を張り付けた 「遊走ラック 」 と歯を噛み合わせる小さな歯車たちを歯車 A の周辺に並べてそれぞれA と歯を噛み合わせ、 左半分の 四 や 五 などの文字盤を張り付けた「遊走ラック 」と歯を噛み合わせる小さな歯車たちを歯車B の周辺に並べてそれぞれB と歯を噛み合わせると、 1年周期で文字盤が両側から下に集まったり上に集まったりする運動を作ることができる。

  以上のようなことが、 コンピューターグラフィックを駆使して、 わかりやすく解説された番組であった。 すばらしい番組であった。 とともに、 東芝の前身となる事業を起こしたこの天才の偉業に感動した。